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2005alaska 09/14
ロードハウスの朝

 朝からどんよりとした空。妻は気分が落ち込んでいて引きこもってしまったので一人で朝食に降りる。どうやらこの宿の雰囲気になじめないらしい。パンケーキとソーセージ、卵はスクランブルにしてもらう。昨日は居なかった品の良いおばあ様・・・女優の白川由美(二谷友里恵(郷ひろみの元妻)の母)にそっくり・・・が一人でサービスしている。

 コーヒーを飲んでいた、いかにも地元の男性と話をする。「何しに来たの?」「ノーザン・ライツを見に」。そのうち朝食が来て、おばあ様と男性の会話に戻る。「寒くなってきたなあ」「ここ数日で木々が素晴らしく色付いたわねぇ・・・」。そう言えば部屋の窓から見える白樺の木は全ての葉が黄色くなり風が吹く度に葉を散らしている。アメリカン・ロードムービーの一場面に溶け込んだような、ゆったりとした時間が流れる。

 「ホットスプリングに行ってみるかい?」。また男性が話しかけてきた。地名がホットスプリングスだから何処かに温泉があると期待していたので渡りに船。お願いすると、おばあ様が何処かに電話をする。「日本人が来てるんだけど、今日大丈夫?、そう、じゃあよろしく」。これからすぐ迎えに来るそうだ。2階に戻り準備をする。妻を誘うが留守番をしているそうだ。

アラスカのオンセン

 しばらくすると、バンに乗った相当年配の男性が現れた。車に乗り込みその男性の自宅へ向かう。話を聞いてみると、どうやら一般に公開している物ではなく、リクエストがあった時に都合がつけば招待しているらしい。「シロクマ好きか?写真見るか?」。質問の意味が理解できなかったが「YES」と答えておく。

 自宅に着くと、リビングのテーブルにはシロクマの写真が沢山並べてあった。どうやらこのじいちゃんが自分で撮った物らしい。アラスカの北の端まで行けばシロクマを見ることが出来る。暫く拝見していると「ビデオ見るか?」と言って、じいちゃんが撮ったシロクマのビデオが始まった。いったいいつ終わるのか気にしながら世間話。何度もシロクマを見に行っている。本土の出身だが金鉱労働者としてここに来た。妻は小学校の先生だった。いつもならこの時期は膝まで雪が積もっているが、近年は暖かくなった。鹿児島のオンセンに行ったことがある。

 ビデオが終わり、やっと温泉へ。自宅から坂を少し下った所にビニールハウスがあり、ブーゲンビリア等の熱帯の植物が生い茂っている。その中にコンクリートで正方形に固めたプールが3つあり湯が満たされている。大人1人5ドル。「ごゆっくり」と言ってじいちゃんは自宅に戻る。葡萄棚の下、さっそくお湯につかる。無色透明、綺麗なお湯だ。いったい自分は何をしているのか?。思いもよらない展開で、異国の果て一人お湯に浸かっていると自問自答してしまう。

 じいちゃんの自宅へ戻る。奥さんがテレビを見ていた。お礼を言っておく。ちょっとドライブしようということになり、タナナ川へ。ロードハウスを過ぎ、郵便局、学校、集会所・・・結構大きな(大きかった、と言うべきか)町だ・・・を通り過ぎ、向こう岸まで何百メートル(何キロ?)あるのかわからない大河の岸に到着。じいちゃんは捨ててあったゴミを車に積み込み始めた。後で分別してリサイクルに出すそうだ。いったいどんな人生を歩んできたのか知る由もないが、しっかりとした生き方を感じた。

 帰り道、天気の話。「今夜はきっと晴れるよ。そして素晴らしいノーザンライツが現れるよ。多分ね。いや、きっと」。じいちゃん、ありがとう。

タナナ川の月

 午後はどんより曇った空を気にしながら読書をして過ごす。そして時々昼寝。時たま日が差すが雲の切れ間のわずかな間だけでまたすぐに曇ってしまう。今夜もオーロラはダメだろうか。お湯を入れるだけで食べられる五目ご飯やピラフで晩飯を済ませ、そのまま夜も読書。ついにユリウス・カエサルは運命の日を迎え、側近たちに殺されてしまった。

 10時過ぎ、ついにその時が来た。窓越しに夜空を見上げると星が瞬いている。30分前には何も見えなかったので空模様の変化に驚きながら慌てて支度をし戸外へと出た。満天の星空だ。車に乗り、タナナ川へ向かう。思った通り、町の灯りからも離れ、この時間は誰も居ない静かな岸だ。川向こうに月が明るく輝いているのが・・・幻想的な光景だけど・・・残念だが南側なので気にしないことにしよう。北向きに車を止めてオーロラが現れるのをじっと待つ。

 5分、10分、・・・何もしないでじっとしているのがこれほど退屈だとは予想しなかった。室内灯を点けて読書でもすれば時間はつぶせるが、それではオーロラを見逃すことになるのでただ黙って空を見ているしかない。これがツアーだったら、誰かが知らせてくれるので暖房の効いた場所でコーヒーでも飲みながら待っていればよいのだが、個人旅行ではそうはいかない。性格的に待てないと思う人は、ツアーに参加することをお薦めします。ただ幸いなことに、この時期はマイナス10度程度と予想していた気温は車の中で8度(SUNTO(腕時計)による計測)、外でも氷点下にはなっていないだろう。沢山用意した使い捨てカイロを使うことなく過ごせる。なめてはいけないのはアラスカの寒さではなく地球温暖化の影響だった。

降り注ぐ光

 シートに座り、時々天井から顔を出し・・・スライドオープンルーフが役に立った・・・オーロラを待つ。1時間以上待ち、後ろの月が対岸の森の向こうに沈み始めた頃だった。北の空に薄くもやがかかった。また雲が出始めたのかと思ったが、よく見ると風に揺れるカーテンのようにたなびいている。「出てる出てる」とちょっと眠りかけていた妻に告げ、車の屋根から顔を出す。北東から西にかけての空に薄い緑色の帯が揺れている。確かにオーロラだ。生まれて初めてのオーロラを黙って見つめる。そのうちだんだんと薄くなり、消えていった。

 北の空には北斗七星が輝いている。またもとの静寂に戻った。「そりゃ見たと言えば確かに見たけど・・・これじゃあねぇ・・・」。なんだか納得がいかないが、朝まではまだたっぷり時間がある。待つとしよう。午前2時、ついに月は森の向こうに消えた。そしてその時を待っていたようにショーは始まった。始めはやはり北の空に薄くたなびきだし、それがだんだんと頭上まで移動して来た。明るさも増し、白く輝くようになる。車の外に飛び出し、慌ててカメラのシャッターを切りながら空を見上げる。西の稜線では扇風機に取り付けられたリボンのように七色の光が激しく揺れている。頭上ではコーヒーにミルクを垂らしたようにゆっくりと白い帯が渦を巻き、やがてシャワーのように光が降り注いできた。天の川が落ちてくるようだ。光の帯は幾重にもなり南東の空まで続き、満天のオーロラだ。

 言葉もなく呆然と見上げていると、一台のピックアップトラックがやってきた。ちょっと年季の入ったカップルが夜のデートのようだ。カーステレオを大音量で鳴らし、せっかくの幻想的な雰囲気に水を差される。まあ、無視することにしよう。オーロラのショーはいつまでも続く。生まれて初めて見たのでこれがどれほどの規模のオーロラなのか判断できないが十分に満足できる体験となった。

 なおもオーロラのショーは続く。が、突然背後からヘッドライトの強烈な光が差してきた。カップルはお帰りのようだ。川岸に向かってバックしていると思ったらガクンと大きな音がして、以後エンジンのうなる音が聞こえるが動きがない。おいおい、川に落っこちてるよ、どうすんだよ。女性の方がこちらに来て言うには「ロープで引くか、もしくは町まで送ってくれ」。ロープは無いので仕方ない、町まで送ってあげることにする。カップルはさっさと後部座席に乗り込み座ってしまう。慌ててカメラを荷台に投げ込み(おかげでフィルム装填カバーが開いたのに気づかず、数枚が感光してしまった)出発。こうしてオーロラのショーは突然の幕切れとなった。

 町までカップルを送り、我々も宿に戻った。さすがに静まりかえっている宿の裏口から男性が出てきて「お前ら鍵もってんのか?」と聞いてくる。入り口は24時間開いていると思っていたのだがそうではないらしい。慌てて裏口から入れてもらう。待っていてくれたのか、車の音を聞いて出てきてくれたのかわからないが感謝。感動さめやらぬところだが、眠りについた。


09/14 end


Photo
アラスカのオンセンpuffin アラスカのオンセン
ビニールハウスの温泉。奥に見えるのがシロクマじいちゃんの家。
タナナ川の月puffin タナナ川の月
夕日ではありません。カップルのトラックはここに落ちました。車はどうなったのだろう。
北斗七星puffin 北斗七星
適度に森が入り込み「絵」になりました。北極星も空高く輝いています。
オーロラ写真集puffin オーロラ写真集
全体的に露出が長すぎてカーテンのひだが不明瞭になってしまいました。
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